今宵、『Club SLAZY』へ──東 啓介&法月康平インタビュー|Theater letter 06
2016.7.5
Willを演じる東 啓介/Qを演じる法月康平
※なお、以下の記事の冒頭に、Club SLAZYの紹介と、新作公演の導入を一部、掲載しています。ご留意ください。
東 啓介&法月康平、初日直前インタビュー
大都会の片隅にあるという『Club SLAZY』。
そこに訪れることができるのは、真紅の「ガーネットカード」を受け取った、深い悲しみにくれた女性たち。扉を開けると、待っているのは眩(まばゆ)いステージと客席。
歌い踊るのは、AからはじまるAct(大山真志)、BからはじまるBloom(太田基裕)、CからはじまるCoolBeanz(米原幸佑)、DからはじまるDeep(加藤良輔)と、それぞれの名にアルファベットを抱(いだ)く、「パフォーマー」と呼ばれる彼ら。
けれどショーでソロナンバーを歌えるのは、トップエース、セカンドエース、サードスター、フォーススター、ファイブスターと称される5人の「レイジー」のみ。そして、その座を目指すダンサー「ニュージャック」たちは、夜ごと、華麗なショーを繰り広げている。
紡がれるのはタイトル通り、S級だけれど、LAZY(怠け者)な彼らが悩み苦しみ、次、へと踏み出す、その姿。
決して店の表舞台に立たず、彼らと直接関わることも許されていない、裏方「ミスティック」達は今日もすべてのショーの終わりを見届けて、店の外へと続く客の足跡をすべて消し去る。それは、まるで過去を拭い去るかのように。
今回、シリーズ5作目となる『Club SLAZY -Another world-』で描かれるのは、Club SLAZYの過去。
半年前、自分探しの旅に出てしまったトップエースのAct。なぜ彼は突然、店を出て行ったのか? やがて、ミスティックとして店を守るQ(法月康平)が語り出すのは、彼がトップエースではなかった、3年前の物語。
果たしてそれは当時のトップエース、ガーネットの石を胸に抱くWill(東 啓介)と彼を見守る、V.P(Kimeru)。そしてトップを目指し飢えるActたちの切ない関係だった。
初日を控え、本作初出演にしてトップエース、Willに挑む東 啓介さんと、すべてを知りながら(?)すべてを静かに見つめる、Qちゃんこと法月康平さんのインタビューを「最善席」初出しとなるビジュアルとともに、ここにお届け。
東 啓介 as Will
自身が立つ楽しさより、渡す楽しさを
──初登場で、トップエースの役に挑みます。
東:新キャラクターですが、すでにみんなと深く関わっていて、自己紹介してから入るのではなく、もともとそこに居た……という、ちょっと変わった新キャラの在り方だと感じています。今回、特にこれまでの過去がいろいろ明かされるので、とても重要な役どころを任されたと思っています。
心がけているのはショーに出るときのカッコよさ。でも、LAZY(怠け者)だけあって、ダメ男。そのオンとオフが激しいからこそ魅力的……そんな姿を届けたい。場面によって異なる姿を見せる、難しい役ですが、今、稽古がすごく楽しくて! Willとして、キャストの皆さんとの関係性をすごく考えています。
──実は、ゼロから作り上げる役は初に近いのではないでしょうか。
東:確かに……。もしかしたら今回が、東 啓介、という俳優の真骨頂を見せられる舞台になるかもしれません。
──怖いですか?
東:楽しさと半々です。オリジナルの場合、その人物の人生を僕が背負う覚悟している分、責任もあるけど楽しい。ただ、その分、悩みは増えるばかりです……でも、楽しい気持ちが大きいかな。
今回、Willにいただいた曲がものすごくかっこよくて、さすがはトップエースの歌だな、と感じているので、今の僕自身としてはもっとがんばらなければと思っています。僕、「Club SLAZY」の曲が全部、大好きなんです。普段、曲を聴くときもイントロで「あ、これ好き」とかわかるんだけど、どの曲も最初から心地よくて。だからこそ、うまく歌うということだけでなく歌詞の意味まで伝わるように表現したいです。
──実は、今回、おそろしく歌のうまいキャストが揃いました……。
東:そうなんです! 稽古場も、え、これ無料で聴いちゃっていいの? と思うほどで、びっくりしています。みなさん、それぞれに異なる声音や歌い方でひとりとして同じ色がないんです。毎日、切磋琢磨して、役者として高められる場所だと思います。
なにより先輩ばかりで、学ぶことが多いです。歌や言葉に気持ちを乗せるだけでなく、なにも言わずとも思いを伝える場面もあって、得るものがたくさんあります。ただ、同時にできなくて悔しいことも多いんですが……。
──ひょっとして、負けず嫌いでしょうか。
東:はい……あまり、外にだすことはないんですが、悔しいことだらけです。
──とはいえ、キャスト最年少です。
東:はい! でも、だからできなくていい、ということにはならないし背は大きいので、トップとして大きな背中を見せたいです。
──そして、公演中の7月14日、21歳の誕生日を迎えます。この日はルッキュによる配信収録も行われます。
東:ありがとうございます。舞台で誕生日を迎えることができるのは、すごくうれしい。
──昨年、20歳を迎えて変わったことはありますか?
東:いろんな扉が開きました。こういう仕事だからこそ、たくさんの人と関わることができるし、関わりたいと思えるようになりました。……実は僕、あまり人とコミュニケーションを取るのが得意じゃないから。
あと、やっぱり、みんなとご飯に行って、お酒を飲めるのがうれしいです。共演者の方々だけでなくスタッフの方の話を聞くのもおもしろいし、お酒の席だと距離が縮まる気がしますし、こういう仕事だからこそ、関係が大切なところだと感じています。
──デビューから、3年を数えますが意識は変わりましたか?
東:いろいろなものをお客さんに届けたいと思うようになりました。生々しいですけど、お金を払って、時間を使った価値の分だけ、ひとつでもいいから、なにかを渡したい。カッコいいでも、また観たいでも、なんでもいいから、持って帰ってもらいたいと考えるようになりました。
──俯瞰の位置から物事をとらえておられます。それは最初からでしょうか?
東:いえ、最初は自分のためにがんばらなくちゃ、と思っていたけど、だんだんと一緒に作り上げているスタッフさんやお客さんのために、と思うようになっていったんです。
──なにかキッカケがあったのでしょうか。
東:身近な先輩に話をしてもらったんです。「何のために舞台に立ってるの?」「何のためにこの世界に入ったの?」って聞かれて、「自分のお芝居を観てもらいたい」「歌を聞いてもらいたい」って「したい」ことばかり言っていたんです。
でも「お客さんに何かしてあげたい、っていう気持ちはないの?」って言われて、あっ、て思ったんです。なによりもまず、その日、目の前に居るお客さんに、毎日、新鮮な舞台を届けることが最初に在るべきなんだ、って。
──その先輩はどなたか、お聞きしても?
東:はい。宮崎秋人さん、そして安川純平さんです。とても大切なことを教わりました。
──そんな、ご自身が演じるWillは、今回の舞台でなにを伝えるでしょう。
東:……人が隣りにいる、ってことの心強さ。何気ないことでも、当たり前にそばに居てくれる人がいることは実はとても大きいから、大切にしてほしい。そんなことを届けたいです。
NEXT → 続けて取材を受ける、法月康平さんへ。
東:きっと、おもしろいお話をして、インタビューを盛り上げてくれると思います! そして、初日までまだ時間があるので、ちょっとだけでいいので歌い方を教えてほしいです。(直接言えばいいのに、と、周りからツッコミ)いえ、あの……面と向かって言えないところが僕なんです。
法月康平 as Q
「Q」だからこそ、背負えることがある
──ご自身の演じる、Qは謎に満ちた存在でしたが、前作の「Club SLAZY 4th」でミスティックであり続ける理由とともに、Bloomとの切ない過去が明かされ、多くの人が心揺さぶられました。
法月:2作目から、Qとして出演させていただいてますが、これまではずっと無機質に演じていたんです。でも前作から物語がだんだんとシリアスになっていったことで、人間味を出せるようになり、新しいQを見せることができたことはうれしかったですね。
──Qは怒ると顔には出さずに、でも、きれいな立ち姿のまま、密かに靴のカカトがあがります(これから舞台をご覧になる方は、ぜひ注目を)。多くのことを知りながらあえて黙っている、心は揺れながらも表情は変えなし、けれど感情が漏れてしまう……その、ギャップが魅力です。
法月:ありがとうございます。カカトをあげるのは演出家の三浦 香さんが付けてくれた表現ですが、そういったブロードウェイチックなところもすごく好き。僕自身もQちゃんはハマり役だと思っているので、今回も、出演できることは感謝しています。
──メンバーを見守る存在であるからこそ、唯一、ショーの外側から、語り部も努めます。
法月:そこはすごく心掛けて演じています。Qちゃんって、すごく説明する立場だから。なにより、公演ごとに時代が異なり、スレイジーのメンバーもちがう。今回だと、同じActでも1作目のActより前の時代のお話だから、Actの演技自体もちがってくる。
けれど、毎公演、僕が「トップエースのActは自分探しの旅に出ている」と語っているので、一度でも観てくださってる方のなかに、その説明は残っていると思うんです。だから同じように今回は「この店にはBloomとCoolBeansさんが居て、今日、この舞台上には姿が見えないけれど、どこかにはいる」だから、A、B、Cとメンバーがいて「その、Actさんが帰ってくるんだよ」という世界をわかってもらって、物語に入る……そのことを僕が背負わなければならない、と思っています。Actが出てきたときに「誰?」ってならないように。そこを最初に伝えることで、キャストみんなも自由に遊べるから。
──ブレないQだからこそ、できることかと。ただ、なかななかに重い役割です。
法月:助けになれていると感じる部分でもあるので、ありがたいですね。いただくお手紙にも「スレイジーの母」といったことを書いてくださる方もおられるので、そう見えていたらうれしい。謎だらけの存在ですが、みんなのことが大好きで、見守っていますから。
僕がおもしろいと思っていることなんですが、Qちゃんってよく名言を産むんです。人として生きていくために、そうだな……っていう言葉をたくさん言う。でも、実はそれって全部、誰かの言葉なんですよ。だから、なんかこいつ、全部を知っている顔をしながらも、なんかセコいぞって(笑)。だから、実はすごく人間味があるな、って。
──セコい(笑)。でも、ともすれば、そうやって聞いた言葉を、あえて誰かに伝えているのかもしれません。
法月:ああ、それはありますね。直接に言うことが許されないとか、伝えそこなった言葉を代わりに受け止めている部分はあるかも。でも、それを知ることで、怒ったり嫉妬したりもするから……ひょっとしたらかなり人間臭いのかもしれません。今回は、そういう姿も見せることができたらいいな。
──そして、もちろん歌も歌います。
法月:SLAZYの歌は、伝えたい言葉や意味がそれぞれに込められているので、その思いも届けるように歌いたい。今回も、僕の歌で「出口のない小さな檻」という歌詞があって、果たしてそれが意味するところは? といったところまで感じてほしい。
一方で、ミュージカルナンバーを歌う公演はすでにある楽曲をカバーすることが多いので、1曲歌う間に歌詞の意味や思いまですべて伝えることは難しい。だから、まず僕自身が曲を好きになって、楽しく歌うことを心掛けています。その楽しさは絶対に客席に伝わると思っているので、家に帰ってから「あの曲、楽しかったな。なんていう曲だろう」って調べてもらえたり、歌ってみたりしてくれららうれしい。
──そんなQから、今回の公演について、言葉を届けるとした……?
法月:1作目以来、久しぶりにActさんが登場するということで、ずっと観続けてきた方にとっては待ちに待った公演だと思います。Actの結末を見届けてほしい。そして、表情を変えずに淡々と、でも心にしみるセリフを言う、Qがいます。これは自分のブログにも書きましたが1回観ただけではわからない関係も描かれているので、最後まで観た上で、繰り返し観てほしいです。
謎が多くて、難しいところもあるかもしれません。でもキャスト全員がこの作品をすごく好きで、大切に演じています。初めてご覧になる方は、僕らのなかで誰か、好きなキャラクターを見つけていただくことも楽しいと思いますし、隠された物語を探すのも楽しいと思います。実はシリアスなお話でもあるので、機会があれば男性にも観ていただけたらうれしい。今回、1作目と同じ劇場で、スタートの地に帰ってきたので、より一層、いいものを届けられるようがんばります。
ANSWER → 先に取材を終えた、東 啓介さんへ
(歌を教えてほしい、というコメント聞いて)
法月:なんで、僕!? でも、くっついてきて可愛いんですよ。あんなに大きいのに(笑)。
今は苦しんでいる部分があるかもしれないけど、そこも含めて稽古場での東くんはトップエースにしか見えません。全部を知っているQちゃんだからこそ、その役を演じる僕を頼りにしてほしいけど、いつだって、QちゃんがWillをトップエースとして見ています……恥ずかしい!
6月末、稽古場に伺っての、取材終了後。
「歌教えて、ってなんだよー」と笑いかける法月さんの背中に、ぴた、っとくっついて「だってー!」と(大きいけど)カルガモのように付いて行く東さんでした。
取材・文/おーちようこ
カメラマン/児玉大輔 記事や写真の無断体裁を禁じます。⒞2016CLIE/CSL
最善席サイトに届けられた、初出しのお写真を一挙掲載!
『Club SLAZY-Another world-』
公式サイト http://www.clie.asia/CSL-AW/
日程・2016 年 7 月6 日(水)〜17 日(日) 新宿 FACE(東京)
脚本:三浦香/伊勢直弘 演出:三浦香 楽曲制作:Asu(BMI.Inc) 振付: 當間里美
出演・Act:大山真志、Deep:加藤良輔、Q:法月康平、V.P:Kimeru、Will:東 啓介、Graf:後藤健流、Eyeball:長倉正明 X:石坂 勇 ほか
チケット料金:プレミアム席:10,500 円(税込)
※全席指定:前方エリア席・プレミアムシート特典付き
一般席:6,400 円(税込) ※全席指定
⒞2016CLIE/CSL