『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』 初日会見レポ&緊急レビュー。意気込みは「見ていただいた通りです」

「つかこうへい十三回忌特別公演『新・熱海殺人事件』ラストスプリング」が開幕した。つかこうへいさんの戯曲『熱海殺人事件』をさまざな座組で紀伊國屋ホールで上演する本作は演劇界、春の風物詩とも呼ばれる恒例公演だ。
 つか作品を多くプロデュースした岡村俊一さんの演出で上演されるのも12年目。さらに初上演から49年目を数え、来年はついに50年目を迎えるという歴史ある演目だ。
 登場人物は4人。
 今年は、味方良介さんが木村伝兵衛部長刑事役、新内眞衣さんが婦人警官水野朋子役、高橋龍輝さんが熊田留吉刑事役、一色洋平さんが犯人大山金太郎役に挑む。本サイトでは稽古場での通し稽古レポとコメントをお届けしたが、本日は気合たっぷりの初日直前の一部舞台公開から20点余りの写真と会見コメント、そして初日観劇後のテンションのままに緊急レビューをお届けする。

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撮影・文・レビュー/おーちようこ
レビュー/紅玉いづき

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意気込みは「見ていただいた通りです」

 一部舞台公開を終え、意気込みを聞かれ、そう答えたのは主演・木村伝兵衛部長刑事を演じる、味方良介さん。その言葉だけで十分、本当に「観たら、わかる」という空間がそこにはあった。以下に彼らのコメントを記す。

味方さん:今年で5度目の木村伝兵衛役ですが、改めて演じるほどに木村伝兵衛というキャラクターが、みんなに持ち上げられて生きている存在だということを感じました。僕一人の力ではできない。キャスト、スタッフ、この作品に携わっているすべての方のおかげで、この『熱海殺人事件』は続いているのだと実感しています。
 今回、この13回忌特別公演に立たせていただくことがとてもうれしいことですが、僕はつかさんにお会いしたことがなくて、それがとても悔しいんです。だからこそ、その悔しさをバネにして、ここで演じているんだ、ということを届けたいです。

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新内眞衣さん:乃木坂46として最後の舞台が昨年の『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』で、卒業後、最初の舞台がこの『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』が最初の舞台ということが感慨深いです。久々なので緊張していますが、精一杯がんばります。

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高橋龍輝さん:2015年の舞台『いつも心に太陽を』以来の、つかこうへいさん作品で、紀伊國屋ホールです。ずっと観ていて出たかった、念願の『熱海殺人事件』に出演できてうれしいです! この作品を通して生きる素晴らしさを伝えたいです。

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一色洋平さん:4日間という短い公演ですが、だからこそ『幻の熱海』と言ってもらえるようにがんばります。改修後の紀伊国屋ホールは、椅子が新しくなったり変えるところは変え、けれど歴史ある劇場を残していこう、という思いが感じられ、そこで上演される歴史ある演目に出演者のひとりとして名を連ねることができてうれしいです。

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 途中、改修後の紀伊国屋ホールについて「なにもかも新しく、楽屋の入り口も、舞台上から見える景色も全部変わり……」という発言に、司会から「今、若干、ボケました?」とツッコミが。「伝わりませんでしたか……(笑)」という返しを受け、新内さんが「特徴的な壁の飾りとか、なくなっちゃうのかな? と話していたけど、なにひとつ変わっていなくてうれしいです」とまるで水野朋子さながらに、木村伝兵衛のフォローをする姿に会場からも思わず笑いが。

 4人の息もぴったりなこの座組で届ける『熱海殺人事件』は4月3日(日)まで!

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わたしはなぜ、毎回
劇場へと打ちひしがれに行くのか

おーちようこ寄稿

 ラスト間近、水野朋子婦人警官と木村伝兵衛部長刑事の、とある会話を受け、近くの席から「えっ?」という驚きの声があがった瞬間、思わず、にんまりしてしまった──そう、そういう解釈もあるんですよ、と。顔はあふれた涙とマスクの汗とで、どろどろだったけれど。

 そうなんだよ。『熱海殺人事件』って、いろんな暗喩や例え話が詰まっていて、役者の解釈、演技ひとつ、見方ひとつで、客席はどうとでも取れてしまうし、だからこそ振り回されてしまう。役者があの膨大な台詞を吐く姿に圧倒され、理解が追いつかなくても、目の前の迫力に、情熱に心動かされてしまうし、ひとつの台詞の意味を考え出すと次々と思考が転がってしまう……けれど、今年の『熱海』は明確にひとつのラストに向け、物語が進んでいたのだ。

 熱量はもちろんのこと、全員の解釈がぴったり一致していて、だからこそ台詞の内容がよりひとつの方向ヘと意味を持ち、それぞれの台詞が、意図するところが、カチカチとハマっていく感じがものすごく響く。4人が会話のパスをしている。相手がどういう意図で、その台詞を吐いているのかを、役として受け止め返している。

 先の稽古場レポで大山金太郎役の一色洋平さんが「金太郎は絶対に隠したいことがあって、そのために俺は極刑でいいからと言う。けれど、それを許してくれないのが捜査室であり、木村伝兵衛という存在」と語っていて。こんなにも端的に、金太郎の有り様が言語化されたことに驚き、『熱海殺人事件』を観るたびに自分が感じた切なさや息苦しさの一端に触れたのだ。遅い。そして、やっぱり役者ってすごい。

 もちろん、それが絶対の正解、ではない。あくまでも、これは2022年の『熱海殺人事件』を演じる、一色洋平、という役者の解釈だ。けれど、その役者の解釈をひとつ心に置いて観れば……するすると、それぞれの心情が見えてくるではないか。必死に隠そうとする金太郎に茶化しながらも、決して言葉にはしないけれど「そうじゃない、そうじゃないんだ」と諭す伝兵衛。伝兵衛の意図するところを、ぶんぶんと振り回されながらも受け取り、はた、と気付く、でも脳筋(褒めてます!)な熊田。「部長、本当はいい人なんです」と微笑み言葉の端々に本心をにじませる水野。4人のうちの誰か、の話ではなく、そこには金太郎の、熊田の、水野の、そして伝兵衛という人間の物語が確かにあった。暴力的に振り回される『熱海殺人事件』も大好きだけれど、こんなにも心の細かいところにまで染み込んでくる『熱海殺人事件』も本当に、大好きだ。

 毎回、嗚咽して、情感をぐちゃぐちゃにされ、劇場を後にすることには変わりないのだけれど、令和4年、49年目、4日間の『熱海』を観ることができて本当によかった……50年目の『熱海』もきっと、私は客席で情感をぐちゃぐちゃにされながら、観ていたい、と切に願う。

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物語よ強くあれ、ひとよ優しくあれ。

紅玉いづき寄稿

 月並みなことを言ってしまうけれど、最近のエンタメはしんどい。
 創作は、しんどい。
 楽しく面白いことを書こうとしても、こんな時期に? と思ってしまうし、悲惨でつらい話を書こうとしても、世界では、もっとつらいことが起こっているのに? と思ってしまう。
 そんなことは創作には、本当にどうでもいいことだとわかっているのに。だからといって、見なかったことには出来ない。この時代に生きているから。

 だからこそ、強い話が見たいと思った。
 現実を忘れさせてくれる、ではなく。どんな現実の中にあっても、揺らぐことのない物語を。
『熱海殺人事件』は、「絶対にそう」だと、見る前からの確信があった。
 もはや春の風物詩となった、紀伊國屋ホールでの熱海殺人事件。今年の熱海は一味違う。たった四日間のほんの一瞬、桜よりもはやく散るであろう、「上手い役者しかいない熱海」だった。
 役者が上手いというのは、どういうことか。それは、全員の呼吸があっているということ。役者全員の呼吸があった時、客席の呼吸までもが「あう」のだ。ここだというところで拍手がわき、ここだというところで笑いが起こる。そしていつの間にか、ボロボロと泣いている。
 もはや令和の木村伝兵衛、その看板となった味方さんは、瞳をひとつ丸くするだけで数多の言葉を表現するし、熊田役の高橋さんは力強い肉体から、はじけるような声を届けてくれる。水野婦人警官の新内さんは、なんとも軽やかな愛嬌の中に、おさえきれない情感を見せてくれる。そして一色さんの金太郎は、考え抜かれた精密なプランを、泥臭い演技にのせる。わたしははじめて、この作品の最終シーン、唐突に出てくる「あやとり」がどういうメタファーであったのかを今回の熱海で理解した。
 こんなにも! こんなにも見ているのに!!
 多くのことをわからせてくれる、とんでもない熱海だった。

 熱海殺人事件は、物語としてあまりに強い。
 そして、そこに立つひとは、全員、あまりに、あまりにひとに優しい。

『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』は、今一番、創作の力を信じられる舞台だった。

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