熱海殺人事件バトルロイヤル50’s シャッフル公演レビュー&レポ。伝兵衛が2人 水野が4人!? 熊田と金太郎も3人!!!
このシャッフル公演のテーマは愛だ!
レビュー/紅玉いづき
スペシャルゲスト、馬場徹。
この一文を見た時、卒倒してしまうかと思った。
一番見たい伝兵衛は間違いなく味方良介さんの伝兵衛なのだが、わたしの最初の伝兵衛は、間違いなく馬場さんだったのだ。
思い出というには苛烈すぎるし重すぎた。もしかするとまた、また馬場さんの伝兵衛を見ることができる? そんなことがあるのかと、半信半疑で劇場に座った。
時刻17時59分。この1分が、あんなにも長く感じられたことはない。
やがてふらりと、久保田創さんがあらわれ、あ、これは、わたしの知っている熱海だ、と思った。よく知る、大好きな熱海がはじまる。そして、そして……チャイコフスキーが流れ出したら、もう、夢の舞台は、あっという間だった。
どれだけ泣いてもいいように、タオルをつかんでのぞんだ熱海だったけれど、こんなに笑った熱海ははじめてかもしれない。
十年の月日を経て現れた、馬場さんの伝兵衛は、やわらかく、美しく、きらめていて、
こんなものを見せてもらっていいのか、と思っている間に、熊田があらわれ、水野が現れ……水野!?
水野・多和田任益・朋子が現れた瞬間、会場中がわあっっっと歓声にも似た笑いに包まれた。
残すは水野朋子だけ。そう言っていたじゃない! そう言っていたとき、絶対やって欲しい! と叫んでいた水野がそこにいた。そしてめくるめく、祭りが、宴がはじまった。
二人の伝兵衛が、四人の水野が、三人の熊田が、三人の金太郎が、次々に入れ替わる。
舞台上の、客席の、なんと楽しそうなこと。なんと楽しいこと。はじまる前、すれ違った岡村さんに、「楽しみです!」と言ったら、「泣くよ」と死刑宣告のごとき、ひとことをもらった。その通りに、若い二人の美しさに泣いたし、馬場徹の美しさにも泣いたし、そしてなにより……こんな笑った熱海なんかない!
この事件のテーマは愛だと、伝兵衛は宣言する。
愛だ、と思った。
これは、熱海殺人事件への、愛の舞台だ。
あっという間の二時間だった。
いつまでも終わらないでくれ、と思い。
そして同時に、終わらないでくれたのだ、と思う。
ここまでつながって、終わらないで。そして多分、これからも。
熱海殺人事件はつながっていくし……わたしたちが、つないでいく。
50周年だから、じゃない!
『熱海殺人事件』はいつだって、事件だ!!!
レポ・撮影/おーちようこ
8月16日(水)、紀伊國屋ホールは燃えていた──それは、馬場徹をゲストに迎えた、全キャストによる『熱海殺人事件』の上演だったから。
戯曲誕生から50周年を迎える今年、「バトルロイヤル50’s 」と銘打って、ダブルキャスト、トリプルキャストで上演されることはもちろん、なかでも多くの観客が楽しみにしていたのが、このシャッフル公演だった。
本公演を通してオープニングの挨拶と口上、さらに途中乱入する「爆弾役」、久保田創の朗々たる挨拶から幕が開く。
「全員出ます! 誰がどの役を演じるか、ついさっき、決まりました! 役者も楽しみますが、客席の皆さまもお楽しみください!!!」
その言葉に大きな拍手が送られ幕は開き──冒頭に登場したのは実に10年ぶり、2014年『熱海殺人事件 Battle Royal』以来、紀伊國屋ホールに立つ、馬場徹。そして、2020年の『改竄・熱海殺人事件 “ ザ・ロンゲストスプリング』(当サイトレビュー)より同じく木村伝兵衛部長刑事を演じる荒井敦史も登場。
果たして、登場した水野朋子刑事は、なんと本公演では新内眞衣(スタンダード公演)、佐々木ありさ(エキサイト公演)、小日向ゆか(フレッシャーズ公演)に続き、4人目(!)となる多和田任益が登場。
当サイトインタビューで語った通り、水野役を実現。まさかの艶姿(?)に会場は騒然。一体、この先どうなってしまうのか! 否が応でも盛り上がる劇場。しかし、伝兵衛と並ぶとデカい! さらに、荒井敦史の「10年ぶりに馬場徹を引っ張り出したのは、俺、だよ!!!」の言葉にますます湧く客席。
もちろん、捜査中のダンサーズや爆弾役の乱入者にも全員が登場。通常公演から異なる役割で次々と舞台上を駆け回り、とにもかくにも目が足りない。伝兵衛だけでなく、まさかの王子様の扮装で登場する馬場徹に「あの人! けっこうスゴいミュージカルに出てるんだよ!!! こんな扱いでいいの?」というツッコミが飛び、舞台上の役者も、客席も笑う。そのうえ、なぜか高橋龍輝が、妙に完成度の高い某魔法のランプの精になって、オートロックのホテルのドアの鍵を開ける? という願いを聞き届ける(笑)という一幕も。
さらに、なんと! 本公演だけの特別編として久保田創演じる熊田留吉刑事が登場。多和田任益、高橋龍輝演じる大山金太郎との掛け合いが実現。元北区つかこうへい劇団の一員であり、故つか氏から直接、演出を受けた役者のひとりとして迫真の姿を届ける久保田。一方、つかこうへいダブルス2014「新・幕末純情伝」「広島に原爆を落とす日」から、つか作品に参加した高橋は、本公演での熊田役とは一変、抑えに抑えた、けれど熱い演技で応え、客席からは嗚咽が。
もちろん、「熱海殺人事件 バトルロイヤル50’s 」熊田役の三浦海里、大山役の北野秀気(フレッシャーズ公演)も爆発。果敢に熊田が、金太郎が、水野が、伝兵衛が、板の上で凛と立つ。その全員が「どうだ! これが俺たちの『熱海殺人事件』だ!」と見せつけるかのように、熱が、汗が、笑いが、涙が、客席に叩きつけられる。そう、これが今年の『熱海殺人事件』なんだ。だって、おそらく一度として同じ『熱海殺人事件』はなかったはずだから。そうして、また『熱海殺人事件』は続いていくのだ。
最後に私事を。
スペシャルゲストが馬場徹さんだと知ったのは50周年記念イベント当日、15日の朝、SNSを見て、でした。15、16の両日のチケットはもちろん取っていたのだけれど、一瞬迷って、ええい! と勇気を振り絞って「取材したいです」と一報を入れた……ら、間髪入れずに「撮影用の席を用意するから」と返信が。改めて、あの朝の自分の瞬発力を褒めたい。取材を続けてきたからこその即断だと、信用してもらえたことへの心からの感謝を込め、このレポと写真を広くお届けする次第です(なお、私の席では今年、初熱海! の方が楽しんでくださいました)。
やっぱり『熱海殺人事件』が大好きで、来年の『熱海殺人事件』も楽しみだ。信じて、モンテ(当サイトレビュー)も待ってるから!
シャッフル公演、速報でお伝えした写真はこちらから。