「いつの間にか、ひとりじゃなかった」と川本成。時速246億「さよう、ならば、また、」稽古場レポート、到着!

 

こんな演劇の作り方があるだろうか──それは、先日、お届けした、川本成さんインタビューで記した通り。とてもていねいに、ある意味、学校のような稽古が続く日々。とにかく脚本がおもしろくて、実に演劇的。これらが、どんなふうに舞台上で立ち上がるのだろうか。

この日は、さようチーム、ならばチームと分かれてディスカッション。
「誰に伝えるのか、なにを伝えるのか。そして、誰がなにを知っているのか、それで演じるニュアンスが変わるよね」さらに「動きとセリフがあるけれど、セリフ通りの思いを込めて動いているわけではないよね。じゃあ、今、本当はどうしたいのかな?」とやっぱり今日も、ヒントだけを手渡す川本さん。

この物語が、そういう構造を持つ脚本なのだ。観ている側は本当のことがわからない。演じる役者の解釈によって、いかようにも受け取れてしまう内容だから、あれ? もしかして、これはこういうことだったのかな? あの言葉の意味はこうだったのかな? と最後にたどり着いた後から、もう一度、振り返りたくなってしまう。

さらに、2チームの解釈が「ちがう」のがおもしろい。これから各チームの通し稽古を観て、もしかしたら互いに触発され、発見し、どんどん変わっていくのかもしれない。それはきっと、幕が開いてからも。想像するとわくわくする。それこそが稽古から初日、千秋楽まで毎日、変わっていく「演劇」ならでは、だから。

思い思いのアイディアをぶつけあう、そのひとつひとつを受けては返す、その繰り返し。にこにこと眺めながらも、ときおり、ぽん、と手がかりを投げかける川本さん。そうやって、方向を伝えて、自力でたどり着くことを目指す。まさに全員で作品を創っている。

 

ある日のこと。
稽古場には演出家だけがいるわけではない。演出を補佐する演出助手も。今回、その責務を追うのは自ら劇団も主宰する、大部恭平さん。俳優としてオーディションを受けたが、クリエイターとして関わることを打診されたとか。そう、この企画は川本さんが未来を一緒に歩む仲間と出会うこと。だからこそ、こういった形の参加も実現する。

訪れたのはタイトルと同じ「さよう、ならば、また、」を作詞作曲した、俳優にして音楽家の西山宏幸さん。そう、この作品、高校の屋上で繰り広げられる、地縛霊たちの青春譚(?)なので、もちろん校歌が登場。と、いうわけで、歌唱指導を手がけたシンガーでアーティストの久野友莉さんも稽古場へ。音響の中島聡さんが本番さながらにスピーカーやマイクを始めとする機器を設営。行われたのは、作中歌の収録。もちろん、当日は生歌で披露されるが、本番に向け音量のテスト、公演の素材としても使えるようにとのこと。そう、稽古場では稽古だけでなく、こうしたさまざまな準備が日々、行われているのだ。

「力強く、頼むよー」と西山さん。一瞬の緊張のあと、爆発するような歌声が響き渡る。「役で歌ってね。もう少し、ここははっきり、強く」と盛り上げていく。途中、歌詞を間違った人に向け、いっせいにツッコミが(笑)。笑いがこぼれるも、すぐに真顔になり再開。録音した自分たちの歌声を神妙な顔で聞き返す。その様子を静かに見守る川本さん。

実際に歌っている間、久野さんは全員の前に立ち、ここは大きく、ゆるやかに、と両手を広げ、指先で歌声を導く。少しだけお話を伺った。
「西山さんの作・演出舞台で、成さんと共演したのをキッカケに、成さんと西山さんが楽しいことをするときに、声をかけていただけるようになりました! 2回ほど稽古をしましたが、皆さん、音が取れてからの成長が早くて。今日、全員で歌う姿を見て、役柄で歌っていて、声に嘘がないな、と感じています。チームによって声質も表現もちがうので幕が開くのが待ち遠しくなりました」とにっこり。

 

 

稽古終わり、川本さんにも一言、コメントをいただいた。

「実は僕、『遺書』っていうタイトルでnoteを書いたんですが、これがね、遺作でもいいくらいの作品になりました。って、もちろん、まだまだ死なないですよ(笑)。でも、今の自分の最高、なものを創っている、という手応えがあるんです。
もともと『時速246億』は、僕が国道246号沿いに住んでいたことから付けた名前で、活動を始めてから17年が経ち、今回は、その集大成のような作品になりつつあります。なによりもうれしいのは、ずっと『時速246億』って、僕ひとりだけのユニットだったのが、いつの間にか、こんなに仲間ができていた、ということです。ずっとひとりっきりで空を見上げて遠くを目指してきましたが、気付いたら全員で一緒に歩いていた、という感覚です。どこまで行けるかわからないけれど、今はこのまま進んでいきたい、そう思います」

初日は今週末。いよいよ、舞台の幕が開く。

 

撮影・文/おーちようこ

日々、更新される公式Xの告知ネタもキャストたちが考えて作っている。

さよう、ならば、また、

 

舞台は廃校が決まった、とある高校の屋上。
そこには、ここからどこにも行けない、生徒たちが集っていた。

■ 日程 2024年4月13日(土)~21日(日)
■ 劇場 シアターグリーン BIG TREE THEATER
■ チケット料金【全席指定・税込】
S席8,800円(最前列)A席6,300円(当日6,500円)U-20席3,800円(観劇時20歳以下対象)

■作・演出:川本成
■出演(五十音順):青木萌、阿部大介、石田周作、一鷓優那、植万由香、大串有希、岡山誠、奥村優希、久保明日香、小泉茉鮎、冴人、境秀人、高橋みのり、富山華佳、成松慶彦、にゃんこスターアンゴラ村長、平岡美保、ふたろ、松川貴弘、馬淵香那、道本成美、山田桃子、横室彩紀、渡邉天斗

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