彼らの行き先を妄想する──地縛霊たちの青春譚。時速246億「さよう、ならば、いつか、」初日、開幕!

当サイトで川本成さんのインタビュー稽古場レポとお届けした、時速246億「さよう、ならば、いつか、」の「さよう」チーム、「ならば」チームが初日を迎えた。

「さよう」チーム
ブリさん・バンちゃん・ミズ先生・カンくん・ジョーくん・カントク
山ちゃん・ショコラ・少女・ユキノ・テンテン・師匠
「ならば」チーム

 

登場するのは高校2年生の少女(道本成美/一鷓優那)、ユキノ(横室彩紀/大串有希)。
ミズ先生(平岡美保/にゃんこスターアンゴラ村長)とバンちゃん(久保明日香/植万由香)。
師匠(高橋みのり/馬淵香那)、ショコラ(青木萌/奥村優希)、山ちゃん(富山華佳/山田桃子)、テンテン(ふたろ/小泉茉鮎)の演劇部4人組、ジョーくん(渡邉天斗/冴人)とカンくん(境秀人/阿部大介)の天文部コンビ。
そして、ブリさん(岡山誠/石田周作)とカントク(松川貴弘/成松慶彦)の12人。

物語は突然に始まる。
廃校が決まっている高校の屋上で、今、まさに飛び降りようとするひとりの生徒。その姿を前に少しも慌てず、むしろ世間話を始める人々。実は彼らはここに縁がある地縛霊!? だった。

 

 

けれど、意外にも繰り広げられるのは、彼らの青春譚。
世代も価値観もちがう、けれど戸惑う心はいつでも同じ。
ぽつり、ぽつり、と、ひとり、ひとりの言葉がこぼれていく。

普通でいたくない、と嘆くもの。
むしろ、普通でいたいと憧れるもの。
私にはなにもないんだ、と吐露するもの。
実は秘密を隠していたもの。
ずっと恨みを抱えるもの。
誰かが自分を思い続けてくれている、と信じるもの。
今が楽しい、と笑うもの。

彼らの告白は、きらきらと、ひりひりと、まるで客席にいる自分のことのようにも思え、自分の周りにいる誰かのようにも思え、もしかしたら自分も地縛霊のひとりかもしれない、と思えてしまう時間が流れる。

 

毎朝、そろって体操し、他愛ないゲームに興じ、嵐の夜、懐中電灯を手にして屋上を駆け回る彼ら(この演出はなんと、初日2日前に思いついたとか!)、廃校を目前に生きている生徒たちの文化祭と同じ日に、屋上で自分たちも文化祭を開催しようと練習する彼ら。
やがて、校舎の取り壊しが始まる前日、地縛霊を卒業する彼らだけの、卒業式が始まる。その挨拶は清々しく、歌声は高らかで強く、次へと向かう。その先を思うと心が踊る。また、どこかで彼らと会いたい、と願ってしまう。

廃校までの1年間という時間を大切に慈しみながら過ごす彼らのなかで、変わっていくものもいる。そのひとりが、ブリさんだ。なぜ「ブリさん」なのか? は作中で知ってほしいので控えるが、途中、あ、今、恋した、という瞬間の、見開いた瞳に、発せられた言葉に、はっ、とさせられた。そう、人はいつだって変わっていけるんだ!

「さよう」チーム、「ならば」チーム、同じ脚本でありながら、まとう空気がちがうのもおもしろい。
物語も同じ、登場人物も同じ、けれど同じ役、同じ言葉を放っていても、演じている役者の色で印象がくるくると変わっていく。なのに、今回、初めて舞台に立つ、という役者もいるというから驚く。台詞を覚え、立ち位置を覚え、動きを覚え、歌って、踊って、さらに自分だけの色を乗せる。役者って、本当にすごい。

初日を終えた、川本成さんは「この作品には僕の哲学が詰まっています」と語る。確かに演じる役だけでなく、役者全員がそれぞれに歩んできた人生があり、思いがあり、願いがあり、信じるものがある。その欠片を劇場という空間で受け取った、二時間だった。突然、発表されたオーディションに飛び込み、出会った、この公演だけでしか観ることができない奇跡の座組が贈る、幸せな時間を願わくば、多くの人に目撃してほしい。

改めて、すべてを知った後に、実はあれはこうだったのかも? あの言葉の意味は? と、振り返り、思考をくるくると転がしながら、ふくふくと笑みがこぼれながらも、生きていくぞ! と泣けてしまう、舞台でもあった。

 

撮影:Nobuyasu Yamazaki/文:おーちようこ

 

さよう、ならば、また、

■ 日程 2024年4月13日(土)~21日(日)
■ 劇場 シアターグリーン BIG TREE THEATER
■ チケット料金【全席指定・税込】
S席8,800円(最前列)A席6,300円(当日6,500円)U-20席3,800円(観劇時20歳以下対象)

■作・演出:川本成
■出演(五十音順):青木萌、阿部大介、石田周作、一鷓優那、植万由香、大串有希、岡山誠、奥村優希、久保明日香、小泉茉鮎、冴人、境秀人、高橋みのり、富山華佳、成松慶彦、にゃんこスターアンゴラ村長、平岡美保、ふたろ、松川貴弘、馬淵香那、道本成美、山田桃子、横室彩紀、渡邉天斗

公式サイト  公演詳細、公演応援グッズ、アフタートークなど随時更新中。
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著: | カテゴリー:レポート,レビュー

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