大衆演劇の新たな一歩を──書き下ろし『六代目 石川五右衛門』に挑む、龍美麗総座長特別インタビュー

8月21日(土)、スーパー兄弟・龍美麗総座長32歳誕生の公演で届けられるのは『六代目 石川五右衛門』。これは東京大衆演劇協会の篠原が企画、脚本家・坪田塁による書き下ろし新作だ。その試みを託され新たな演目に挑む、今の気持ちを熱く語る。

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幕末の「石川五右衛門」像を届けたい

──今回、新作脚本上演という新たな試みに挑戦されます。

 今から楽しみでわくわくしています。これまでは脚本、演出、主演だったことが、演出と主演になった分、責任は重いな、と感じています。

──役割が減ったのに重いとは?

 はい。それは脚本家の方の期待にも応えて、お客様にも満足していただけるようにと届ける先が増えたからです。これまで自分がやってきたものはすでに先達が残した脚本とオーソドックスな演出プランがあって、そこから自分なりにアレンジして演じてきたんですが、今回はまったくゼロから始めるので自分でもどうなるのかわかりません! でも、それがものすごくおもしろいと感じています。

──題材は「石川五右衛門」です。

 正統派ヒーローよりもアメコミなんかのダークヒーローが好きなんです。心に闇を抱えているというか……だから義賊である石川五右衛門とかそういった要素があると思うんですよね。まず「賊」という時点で法は犯しているので(笑)。でも民衆の気持ちを背負って自ら罪をかぶるという役はやり甲斐を感じています。

──さらにオリジナル脚本を史上初めて演じます。過去、多くの作品で「石川五右衛門」が登場しますが今回は御本人が初の発信となります。今回、作品のためにオリジナルポスターの撮影がありましたがこだわりが伺えます。

 石川五右衛門と聞くと誰しも抱くイメージがあると思うんです。なので、そこにリスペクトしつつ、自分なりの世界観を織り込みました。たとえば衣裳も幕末なのでちょっと洋装の気配も入れて、と……ビジュアルを考えているときがいちばん楽しいかもしれません。衣裳もですが化粧にもこだわります。大衆演劇ってわりと定番のメイクが多いんですが、今回は五右衛門の歌舞伎の隈取りからヒントを得ています。よく大衆演劇でも「変わったことばかりしてるね」って言われるんですが、変わったことをするためにはまず基本の形を知っていないとできないんですよ。そこがなければただの型無しになっちゃうから。
 だから髪型も、歌舞伎での五右衛門は百日鬘(ひゃくにちかしら)といって月代(さかやき:額から頭の中央に向け剃り上げた部分)を百日間伸ばしたという、みんなが知ってるボサボサなのはわかってます。そこをわかったうえで子孫であり、幕末という時代を意識して決めました。まず、そこを知らなければただ自分がやりたい格好をしているだけになっちゃうから。

 

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「龍美麗」という名に恥じない
未来への文化を届けたい

──粋心会(すいしんかい)という若手座長の会の会長です。

 もともと父が和・一信会という座長の会をやっていて、その劇団の次期座長が集う会なんです。そこで父たちがカッコいい歴史ある演目をやるときに、僕ら若手が同じことをしているのでは発展がない。だからこそ父たちとはちがうことをやっていきたいと考えて、若手の会をやらせてほしいと父に願い出て誕生しました。
 そのときに「粋心会ならではの紋付袴を作ろうぜ」と、真っ赤でビスが付いているド派手な紋付袴を全員で作りました。みんなからは「カッコいいけど、こんなのを作っていいんですかね……?」という声が上がったんだけど「いいんだよ。自分たちの会なんだから自分たちの好きにやろうよ」と。きっと傾くのが好きなんですね。そこは祖父に似たみたいで。

──お祖父様とは?

 この劇団を立ち上げた初代「南條隆」です。奇抜なことが大好きで、実は歌舞伎で宙乗りを始めるより先に、空軍からパラシュートの胴体を支える部分をもらって、そこに縄つけて人力で宙乗りをやってのけたりした、かなり破天荒な人で、父に言わせると僕はそっくりなんだそうで(笑)。反面教師なのか、二代目「南條隆」を継いだ父は実に王道で正統派な役者で、その流れは弟が継いでいます。

──なぜ長男である、ご自身が三代目「南條隆」を継がなかったのでしょうか?

 この「龍美麗」という名は父が付けてくれました。中国に有名な宋家の三姉妹がいて、その一人の「びれい」という名を父が知って、きれいな響きだと思ってずっといつか使おうと取っておいたそうなんです。
 それで僕ら兄弟が若座長になったときに「龍美麗」と付けてくれて、兄が龍だから弟は「竜虎」からとって「南條景虎」と付けてもらった。ただ、僕は長男だから「将来は南條隆を継ぐの?」ってすごく聞かれていたんですが、もらった名前が気に入っていたので、正統派の弟に継いでほしくて、三代目「南條隆」となりました。なので僕は僕で、この名を息子に継がせて「南條隆」と同じ位置まで持っていくことが恩返しだと思っているんです。

──すてきです。ちなみに劇団名にある「スーパー兄弟」というのは?

 これも父が付けました。スーパー歌舞伎にちなんで斬新なことをやる兄弟、という意味で。

──お父様の名付けのセンスが絶妙です。

 父もちょっと変わっているところがあって。発想がおもしろいんですよね。

──実はお名前を知ったときに「美しく麗しい」とは、なんとすごい名前なのだ……と驚きましたが、舞台上での華のあるお姿に圧倒されました。

 ありがとうございます。ただ、字面だけ見たら確かにそうですよね(笑)。名前負けしないように、と思ってます。

──以前の三座長鼎談で「立場が人を作る」というお話があり感銘を受けました。同じく名は体を表す、ではないですが、名前に対し思うことはありますか?

 あー……実はものすごく悩んだ時期があります。龍美麗ってなんやねん? と。3〜4年前ですが自分らしさがわからなくって「龍美麗ってなんなの? 俺にそんな武器あるの?」と。ただ、あるとき「俺にはそんな特別の武器なんかない!」と気付いて。
 そうじゃないんだ、俺が龍美麗なんだから、俺がやることが全部、龍美麗らしさなんだ、と吹っ切ることができました。

──そういう意味では、今回の公演も「龍美麗」ならではが詰まっているのではないかと感じます。

 それはあります。書き下ろし脚本を上演するお話も、声優さんをゲストに招いてのコラボ公演も「やってみませんか?」と声をかけていただいて、即答しました。声をかけていただいた、ということがこれまでいろいろなことをやってきた結果で、実を結んだんじゃないかな、と嬉しかったですね。続けてきたことを見ていてもらったんだな、と光栄でした。でも、だからこそプレッシャーではあります。

──その初演が、いよいよ21日に迎えます。

 どんな舞台も「初演」は一回しかないので、皆さんに観てほしいですね。うちの劇団員はけっこう僕の無茶ぶりに慣れていて(笑)。別の劇団さんに僕が書いた脚本を演じたいと言われて、実際に演ったんですが「こんな大変な公演は年に一回か二回しかできんやろ?」と言われて「いや、うち、これ平日に演ってます」って答えたら驚かれました。
 でも、うちの劇団員はできるんです。そこは信頼してますね。だから、いつか僕の息子がこの演目を上演するときに副座長の南條勇希や花形の一城風馬とかが「おまえの父ちゃんが演ったときは大変やったぞ!」と言ってくれたら嬉しいですね。改めて、名前を残す、ってどういうことだろうか……と考えたときに、こうして新作を残してつないでいくこともひとつの文化の継承ではないかと考えるようになりました。

──かねてより演劇は事件だ、と思っていて。もともとはかわら版、事件を演目にして旅役者が回っていたという歴史があります。

 フィクションをノンフィクションに変えて、ですよね。だから今回の舞台も世相が反映されていてめちゃくちゃおもしろいんですよ。実はコロナを題材にしたものを書こうかなと思っていたときに、コロナ差別があるなかで僕らがコロナにかかってしまって、自分が書くとなると言い訳がましいな、と諦めたんです。でも今回の話は希望が持てるし、僕がもやもやしている気持ちを全部、ふっとばしてくれる内容です。楽しみにしていてください。
 今回は初演ですが続けていくことで深みを増していきたいんです。いつか『六代目 石川五右衛門』ってこんな話だったんだ! と広く知ってもらって、いろんな劇団で演じてもらえるような未来を目指したい。だから、ものすごい刺激をいただいています。正直に言ってしまうとこのコロナ禍で粋心会で集まることもなくなって、なんというか……創作意欲みたいなものが無くなっていたんですね。それで、ああ、世の中の動きと自分の心はつながっているんだなあ、と気付いてから「創りたい」と思うまで待とう、と思っていた矢先にこの企画のお話をいただいたので、今、もう全力で爆発しています。

──まるで『ルパン三世』のようで楽しみです! 最後に一言、お願いします。

 みなさんの力があってこそのこの公演なので、たくさんの方々の力をお借りしての舞台です。軽業師の役なんですが、僕、なんにもできないので京都の太秦で忍者ショーをやっている方をゲストにお招きして、ド派手な舞台を送ります。
 こんな時期ですが、この舞台を観ることで「あー、楽しかったな」とひと時でも思ってくれたらいいなと。生の舞台を感じることで泣いたり笑ったりして心のデトックスじゃないですが、そういった時間を過ごしてもらえたら最高に幸せです。

龍美麗/りゅう・びれい
1989年8月3日生まれ。32歳。
「南條隆とスーパー兄弟」総座長。二代目南條隆(現・総帥)の長男に生まれ3歳で初舞台へ。2003年に若座長となり和竜也から龍美麗に改名。2007年5月に総座長を襲名。

2021年8月某日収録
撮影/為広麻里
取材・文/おーちようこ

提供/篠原演劇企画

 

『六代目 石川五右衛門』脚本
坪田塁 寄稿原稿到着!

 はじめまして。坪田塁と申します。商業演劇──っていうのかな。そういう舞台の脚本を書いたり演出をしたり、ドラマからアニメまで様々な映像作品の脚本を書いたりしています。
この度、奇跡的な巡り合わせで、大衆演劇界に新風を吹かせ続け、その可能性を無限大に広げているスーパー兄弟・龍美麗総座長の誕生日公演の脚本を書かせていただくことになりました。ああ嬉しい。
「東京大衆演劇協会の篠原さんに坪田さんのプロフィールお見せしたところ、ぜひコラボしたいというお声がけが!」という連絡をもらったときは興味の脊髄反射で「書きたいです!」と即答したものの、聞けば「東京大衆演劇協会の篠原さん曰く、坪田さんが初のケースだそうです!」「歴史に名を刻みますね!」ということでその責任の重さに押しつぶされそうに、いや、幾度も押しつぶされました。
 しかしそれでも私がこの脚本を書き上げられたのは僭越ながら、龍美麗総座長を私なりにさらに魅力的に描きたいと思ったからに他なりません。
 そこで以下の二つに重点を置きました。幕末の江戸と現代を重ねることで見えてくる物語であること。何より龍美麗総座長の誕生日公演ということを強く感じられること。そしてこのご時世だからこそ私たちの舞台への思いを反映させること。あ、三つでしたね。
 その三つの思いを描くのに最も適していたのがこの『六代目石川五右衛門』という設定だったのです。お楽しみいただければ幸いです。
 願わくばどうか誕生日公演をご覧いただきまして、この史上初の歴史的なコラボの感想を皆々様からお伺いしたいと思っております。
 当日は私も客席におりますので、よろしければそこでまたお会いいたしましょう。

坪田塁 作家・演出家
1975年12月8日生まれ、東京都渋谷区出身。1994年小学校からの幼なじみで俳優・タレント・ミュージシャンのつるの剛士とともにキティママ社という小劇団を旗揚げ。以降『シティボーイズミックスPRESENTS』や『井ノ原快彦(V6) 携帯芝居 イノなき』など数々の舞台作品の脚本・演出を手がける。

公演情報

龍美麗誕生日公演&後夜祭
劇場「天然温泉 みのりの湯 柏健康センター」
https://minorinoyu.com/performance/
万全のコロナ対策をもってお迎えいたします。
当日券のご用意もございます。

■8月21日《誕生日公演》
お芝居『六代目石川五右衛門』
坪田塁×篠原企画×スーパー兄弟

■8月22日《後夜祭》
お芝居『ヨイトマケの唄』
宮下栄治×龍美麗

22日コラボゲスト

宮下栄治 声優
1978年9月26日生まれ、兵庫県出身。代表作は「結界師」志士尾限、「ミュータントタートルズ」ラファエロ、「暗殺教室」菅谷創介、「蒼き鋼のアルベジオ-アルス・ノヴァ-」橿原杏平、「刀剣乱舞」岩融・次郎太刀、他多数。

 

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