熱を伝える場所がある。配信しようぜ!──ロフトプロジェクト無観客配信の「今」

 未曾有のコロナ禍によりリアルイベントが難しい今、個人配信が乱立するなかで老舗ライブハウスが立ち上がる──それは、無観客のリモート配信でのライブ。

 3月、いち早く無観客配信を始めたのは老舗のライブハウス「新宿ロフト」を母体としたLOFT PROJECT( http://www.loft-prj.co.jp/ )トーク部門。中心となるのは新宿ロフトプラスワン。設立は1995年。一日店長の居酒屋トークライブという業態を生み出し、数多の人材を掘り起こし世に送り出してきた。

 東京と大阪に全10店舗を展開(5月時点は全店休業中)、様々なイベントを昼夜問わず開催する空間で語られるのは、政治、社会問題、アニメ、舞台、映画、お笑い、特撮、漫画、裏社会、アイドル、オカルトといった幅広い題材と交流。ゆえに未知の文化が生まれる創造の場でもある。だからこそ「おもしろいことを発信したい」という思いから、新たなライブハウスの形を模索中とのことで、ブッキングを担当する石崎典夫さんと前川誠さんに現場の「今」を伺った(4月末、zoomにて収録)。

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「発信したい」を大切に
観客が数人ということもありました

──歌舞伎町にロフトプラスワンが登場したときは、衝撃的でした。今でこそ、異業種の方が一日店長となり飲み屋を回す、という業態は広く定着しましたが、当時、ライブハウスで誰でもイベントが打てる、という形に驚きました。

石崎:母体となるライブハウスの新宿ロフトは1976年10月にオープン、40年以上の歴史を重ねてきました。その中でトークライブ居酒屋として1995年にオープンしたロフトプラスワンは今年、25周年を迎えますが、最初から「おもしろいことをやりたい」という方針は変わりません。そこには人気があるからとか、話題だから、ということは実はあまり関係なくて、過去には観客が数人(笑)、というイベントもありました。
 当初から登壇していた方々で、著名になった方もたくさんいます。たとえば、リリー・フランキーさんは石丸元章さんが呼んでくれて、トークがおもしろいからレギュラーでイベントやりましょう、という話になったと聞いています。カンパニー松尾さんやバクシーシ山下さんとか男5人で、ひたすら「王様ゲーム」をやるだけの回もあったみたいですね(笑)。その後、リリーさんは小説『東京タワー』で広く知られることとなりますが、その後も変わらずイベントを行ってくれていました。

──意外です! 老舗のライブハウスなのでもっと敷居が高いのではないか、と思っていました。

石崎:とんでもない! なにかやりたい、という人のためにこの場所があるんです。だから、常に開かれた場所で、なんでもやるからこそ、いろんなものが生まれる場所でありたいんです。

──そこにはブッキングしているご自身たちならではの「おもしろい」と感じることへの物差しがあるからではないでしょうか。

石崎:それは大きいと思います。だから、いろんな相談を持ち込んでほしい。なによりも、大切なのは「発信したい」という気持ちであって、熱をぶつけてもらえることがうれしいし、なんでも一緒にやりたいんです。

3月、いち早く無観客リモートライブを敢行!
全国からの参加に感じたのは「距離が消えた」こと

──2月25日のイベント自粛要請を受け、「EXILE PERFECT LIVE 2001→2020」 京セラドーム、「Perfume 8th Tour 2020 “P Cubed” in Dome」東京ドーム公演を始め、次々とライブイベントが中止されていきました。そのなかで、いち早く3月5日に阿佐ヶ谷ロフトで、「緊急開催!衝撃の関智一のひとり(?)アカペラライブ!!」なるイベントが無観客、有料配信で開催され驚きました。

石崎:これは、もともとロフトでイベントを開催されていた関さんから申し出をいただき、実現しました。そのご縁で置鮎龍太郎さんや落語家の立川志ら乃さんにも定期的にイベントを開催していただくなど、たくさんの方に助けていただいています。あとは、ロフトで長くやっている杉作J太郎さんと吉田豪さんのイベントも急遽配信に切り替えていただいて、たくさんの方に観ていただきました。
 配信はスケジュール ( https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast )に掲載していますが、現在はほぼ毎日、昼、夕方、夜、と週20本から開催していて、いろいろと体制を整えつつあるところです。

──無観客、有料配信を始めて、新たな発見はありましたか?

前川:さきほどお話した立川志ら乃さんが1ヶ月以上、毎週金曜日に配信をやってくださっているんですが、いままでウチの店で落語を目にする機会がそれほど多くなかったので、新鮮でした。
 本来ならいろいろと作法も必要ですが、こんな時期だからこそ座布団1枚で高座とみなしてしまえば、それでもう成立するんです。もちろん配信スタッフも衛生面では細心の注意を払っていますし、換気などは徹底しています。

石崎:あとは、距離が消えた、ということです。一例ですが、あるイベントで、ぎゅうぎゅうに詰めても80人の阿佐ヶ谷ロフトでのイベントを、日本中から10倍近い、700人を超える数の方がチケットを購入して観てくださったんです。この結果はものすごい希望でした。これまで遠方で来ることができなかったという方からも「観ることができてうれしい」といった声をいただいて、広がりを感じました。
 この騒動が収まった後は、こうした劇場での観客+配信での観客、という形がスタンダードになっていくと思うので、今はそのための準備を整えていると思えました。実際に、国内だけでなく、海外の方も楽しんでくださったようで、将来のライブハウス運営の形も見えました。

著作権管理からデジタルチケット販売と
蓄積されたノウハウを利用してほしい

──この自粛期間中に俳優さんや芸人さん、アーティストといった方々のツイキャス、YouTube、LINE LIVEやインスタライブと個人配信が一気に増えました。最善席でも調べた記事を掲載しましたが、いずれも最低限登録人数の規定や定期配信の義務などいろいろと細かく、初めて挑戦する方には収益化にたどり着くまでが難しいように感じました。

石崎:そういった権利関係、配信窓口についてはいろいろと整備しているところですが、やりたいことがある方は、なんでも相談してほしいんです。
 配信についてはYouTube、ニコニコ動画と複数のプラットフォームを利用していますが、それらのデジタルチケット販売や配信の形と、企画だけでなくいろいろな手続に関しても提案させていただきます。たとえばアイドルグループのイベントはニコニコと客層の相性がいいとか、コメントを拾いながらコミュニケーションを取っていく形がいいとか、これまでにつちかったリアルイベントと新たに無観客開催のノウハウがあるので、それこそ配信の時間帯、規模、チケットの価格といったことすべてについて相談に乗ります。出演者の方はスマホひとつあれば十分で、打ち合わせは電話やLINE、メールでしますし、配信自体は弊社の機材で行います。もし会場まで足を運んでいただく場合でも最小限のスタッフで万全の体制で進めます。

──それはとても安心です。そこで具体的にお伺いします。この記事を読んだ方が自分のイベントをやってみたいと考えた場合、どのような手順となるのでしょうか。

石崎:まずメールで連絡をお願いします。その際に、名前と連絡先とどういうことをやりたいと思っているのか、俳優さんならトークなのか、朗読なのか、といった概要(下記、配信手順について掲載)をいただけたら、こちらからご連絡を差し上げて具体的なことをお伺いします。
 そこで、こういう形ならイベント化できるのではないか、といった話をざっくばらんにして実現に向けて進めます。場合によってはこちらから企画やゲストブッキングの提案もさせていただくこともあります。

──心強いです! 配信をしてみたいけれど、どこから手を付けたらいいのかわからないという方にも朗報です。そこで、恐縮ですが気になるのは利益の分配です。詳細は決まっているのでしょうか。

石崎:現在、出演料に関しては、必要経費・手数料を除いた売上の50%です。ただ、これは今後、変更の可能性はあります。

前川:ものすごく正直に言ってしまうと、これまではチケット代+飲食費が売上となっていたので、今、飲食費がない分、苦しい、ということはあるのですが、それでも手を上げてくださる方々がいて、やれることがある限りは応援したいし、一緒にやっていきたいんです。

──さらに、もうひとつ踏み込んで、お聞きしたいのが「口外禁止」といったイベントについてです。閉じられた空間で話す場合とリモート配信の場合、Webのほうが全世界に配信しているわけで……ここだけの話、的な場合はどうなるのだろうか、と。

前川:実はわたしたちも、リモート生配信での、SNS書き込み禁止のお願い、みたいなものは果たして守られるのかどうか……と少し、心配していたんです。でも、実際に開催してみると、そんなことは全然なくて。「チケット代を払って参加しているのからこそ、この話を聞くことができる」という価値を大切にしてくださっていて。
 むしろ、無料の配信のほうが発言を切り取られて、誤解されて外に出てしまうことがある。これは、わたしたちにとっても発見でした。

石崎:そういう意味では、お客様にとても助けていただいていると感じています。なので配信後に期間限定でアーカイブ配信できるとか、一回限りなのか、といったことも、気軽に相談してください。さらにはロフトプロジェクトでは書籍やDVDの発売も行っているので、そういったことにも発展していけたらと考えています。

前川:なので、ロフトという場所がつちかってきたものを大切に育てたいし、幅広く受け入れる体制はあるので、どんどん利用してください。

無観客配信だからこそ生まれたイベントを
さらに育てていきたい

──落語の配信に続けて、こんなイベントがおもしろかった、というものはありますか?

前川:オールナイト、というのもロフトプラスワンならではのイベントですが、3月14日に行われた、稲田徹×伊藤陽佑 合同捜査イベント「ぼすせん」は休憩なしノンストップで5時間の配信を行いました。

──「ぼすせん」! それは2004年当時、共演されていた『特捜戦隊デカレンジャー』の役名ですね。

前川:はい。現在、それぞれに声優と俳優として活躍されながらも活動の場を広げておられて、緊急企画として立ち上がっていただきました。無観客配信だったので、参加者の方々は自分のペースで一息入れたりされていたと思いますが、トーク自体は盛り上がって全然、止まらず、気付いたら朝になってしまいました。
「なんか外が明るくなってきたね〜」って終わったんですが、リアルのイベントだとはスタッフが「そろそろ……」みたいな合図を出せるんですが、みんなで愉しくなってしまって止めようがなくて(笑)。リモート配信でもこんな空気を作ることができるんだ、という発見でした。このイベントも好評で、次は5月23日に開催されます(「ぼすせん」 https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/146202)。さらに開催予定だったサーキットイベントをリモート無観客配信でやってみようと企画しています。

──気になります!

前川:もともと新宿にあるトーク系の3店舗で同時にイベントを開催して、お客さんはどの店舗に行っても楽しめるというフェス形式のものを予定していたんです。
 その無観客配信版として5月24日に『魔怪都市新宿 オカルト&怪談配信フェス』( https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/145580)が行われます。現代怪談に於ける最高の語り部たちをお招きし、次々と9時間以上に渡る配信を予定しています。このイベントのファンの方々だけでなく、全国津々浦々の怪談好きな方々にも初めて楽しんでいただける機会だと思っていて。こういった試みをどんどんやっていきたいんです。

石崎:今は苦しいときですが、将来のライブハウスの在り方を一緒に創り上げていけたら、それが新たなイベントを生む力になると思っています。

──今日はありがとうございました。

配信しようぜ! 早わかりポイント

発信したいけど不安……という方へ。以下に流れをお届け。

1.窓口に問い合わせよう!

 ・勢いのままどうぞ。
 ・国内どこからでも配信できるので、リアル店舗が近くになくてもOK。

 【問合せ項目】

  1)メールタイトル「イベント開催希望」
  2)出演者名と職種
  3)内容(◯◯のトーク、◯◯の朗読、弾き語り、自作の上映など)
  4)配信時期、時間帯、など希望があれば
  5)メールアドレスと電話番号

 【連絡先 nicovideo@loft-prj.co.jp  
  担当:石崎・前川・丸山

2.配信に向け打ち合わせ

 ・担当から連絡、システム説明、内容相談。構成やブッキングまで対応。
 ・配信プラットフォームの特性(客層、リアルタイム反応の有無、課金システムなど)企画にあわせて提案。著作権関係の相談にも応じるので安心!
 ・リアル店舗、自宅などからのリモート、リレーといった配信形式の相談も。
 ・リアル店舗の配信は全店使え、機材&スタッフも手配。
 ・チケット代(トークは1000~3000円がメイン)の提案も。

3.リアル店舗配信の場合の衛生対応について

 ・スタッフは検温、健康状態を確認の上、マスク着用、最低人数で参加。
 ・演者、スタッフ間で2m以上離れソーシャル・ディスタンスを遵守。
 ・会場は常に換気を行い、消毒、うがいと手洗いはこまめに敢行。

4.課金システム・出演料について

 ・チケット販売から集金まですべて対応。
 ・出演料は必要経費・手数料を除いた売上の50%。※2020年5月現在

どんなイベントがあるのか? チェック!

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast

インタビューを終えて

 こんな時期であり、こんな時期だからこそ、可能性を追い続ける発信者がいることがとてつもなく心強いと感じました。配信のノウハウを持ち、なにかをやりたいという人に向けて企画の提案、相談にも乗り、集金、配分といった、面倒な部分も請け負ってくれる。

 さらにたくさんのイベントを手がけることで情報も集まり、ノウハウがあることでクオリティも保たれる──次世代の全方位型、新たなエンタメ発信基地、あるいはネットのテレビ局となりうるのではないだろうか……と感じました。今、表現の場を求めてうずうずしている人は、ぜひ連絡を。

現在、新宿ロフトの支援プロジェクトも進行中!
http://loft-prj.co.jp/LOFT/forever/

 

取材・文/おーちようこ・賀屋聡子

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